父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
タイトルの通り、美しく深く壮大で、とんでもなく分かりやすい経済の本をご紹介するわ。
普段、あまり経済の本は手に取ることがないのですが、娘への金融教育を考えてるときに本屋で見つけた1冊です。
「オイディプス王」や「ファウスト」「クリスマス・キャロル」といった文学作品、「ブレードランナー」や「マトリックス」といったSF映画などが巧みに引用されていて、読み手をどんどん経済の本質の謎解きへと引き込んでいく内容になっています。
最後には、資本主義を突き詰めていくとどんな未来が待っているのか、我々がこれから行動すべきことまで書かれており、娘の世代が将来安心して暮らせるようにするにはどうしたらよいのか考えさせられました。
この本は、著者バルファキス氏が娘に向けて書いたメッセージである、
「経済を他人に任せず、経済について自分なりの意見が言えるように」という想いが込められた一冊になっています。
- 「経済の始まりとは」「なぜ格差があるのか」「市場社会とは」など、経済のことを楽しみながら学べます。
- 経済について、自分の意見を持つ大切さが分かります。
世界でなぜ「SDGs」がスローガンになっているのかが分かる気がするわ。
著者のプロフィール
著者:ヤニス・バルファキス
1961年アテネ生まれ。
2015年、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務め、EUから財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張し、世界的な話題となった。
このためその1年前に書かれた本書は注目を集め、欧州各国語に翻訳され、フランス、ドイツ、スペインなどでベストセラーになる。
長年イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、現在はアテネ大学で経済学教授を務めている。
本の中で、「経済学者にだけ経済を任せておいてはいけない」と思い経済学者になったと語っています。
革ジャンにスキンヘッド、バイクを乗り回していることがら、マスコミに政界のブルース・ウィルスと書かれたこともあるようです。
本の概要
「なぜこの世には格差があるの?」
娘からのこの問いに対して、経済の原点に立ち返って説明を進めていきます。
飢餓に苦しめられた人間は、狩猟から農耕へ移行し、これにより食料が保存できるようになります。
この農耕から生み出された農作物の「余剰」が経済の原点となるのです。
余った食料の記録が必要となったことから「文字」が発明され、食料の貸し借りの帳簿が「債務」となり、その債務を効率的に管理するために「通貨」が生まれました。
さらに通貨を管理する存在として「国家」ができ、国家は権威を維持するために、国家の思想を信じ込ませる必要があり、「宗教」「官僚」「軍隊」を誕生させました。
「余剰」をどれだけ生み出せたかの要因は、東西に長いユーラシア大陸の地理的環境によることをが大きく、これが国家間の格差を今日までもたらしていると解説しています。
難しい言葉を使わず文明史的な大きな視野で語っていく経済の話は、やがて「市場」の話になり、「利益と借金」、「金融」、「労働力とマネー」とたどって現代に至り、「テクノロジー」や「ビットコイン」、「環境問題」と現在私たちが抱えているテーマへと切り込んでいきます。
そこに描き出されるのは、今日の資本主義(本の中では「市場社会」と言い換えられている)が抱える本質的な問題点は何かということ。
市場に委ねればすべてうまくいくといった考え方では、資本主義の問題は解決できません。では、資本主義の問題を解決するには、どうしたらよいのでしょうか。
著者は、経済、すなわち資本主義を、人間と地球を犠牲にして成り立っているシステムだと捉え、問題の解決策を提示しています。
本を読んだ感想
経済の本を読んでいることを忘れるくらい、引き込まれるように読み進めてしまいました。
難しい話がないからといって内容が薄いわけでは全くなく、資本主義の本質や経済の歴史の輪郭をしっかり把握することができます。
今までぼんやりと断片的にしか知識を持っていなかった経済の仕組みについて、本質から理解できたという爽快感が得られました。
この本の凄いところは、経済の内容を語るのに、数字やデータを一切使わず、代わりに例えとして、ギリシャ神話や文学作品、SF映画(『マトリックス』や『ブレードランナー』)、収容所での父の実体験などを引用しているところです。
これらを例に経済を語ることで、経済のシンプルさ身近さがより際立って伝わります。
意外と、数字やデータより説得力があるから驚きです。
筆者は誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ良い社会の必須条件であると述べており、多くの人に、資本主義について真剣に考えてもらいたいとの想いから、この本を執筆したそうです。
とても分かりやすく経済の本質が書かれているので、娘が高校生になったら読んでもらいたいと思いました。
まさに、自分の娘にも伝えたいと思える経済の話でした。
コメント